ケミカルシフトの解説にまとめてしまうと長くてだれそうだったので、第2のケミカルシフトは分けて記事にしました。
ケミカルシフトの記事はこちら
第2のケミカルシフト
2つの画像は同じスライスを想定して描いたものですが、それぞれTEが異なりopposed-phaseでは臓器の周りが黒く縁取りされていることがわかります。(実際の画像ではありません)
これが第2のケミカルシフトアーチファクトで、この現象の大きさには磁場強度は関係なく、 出現方向は位相、周波数関係なく現れます。
水と脂肪の周波数差は1.5Tの場合224Hzでした。 (ケミカルシフトより)
224Hzとは1秒間に224回転するということですので、、、
水は脂肪より1秒間に224回転分多く回ることとなります。
なので水の方が速いことがわかります。
水が早く脂肪が遅いということですが2つの動きを同時に把握するのは大変ですので
脂肪を固定して水の回転だけについて考えます。
脂肪を固定して観察することで水の動きについてだけ考えることができます。これを回転座標系と言います。
では、水の動きについて
224Hzの時、1回転あたりにかかる時間は?
224Hzとは 1秒間に224回転するので
1秒を224で割ると、1回転あたりの時間が算出できますね
1秒 ÷ 224 = 0.00446秒 = 4.46ms
4.46msごとに1回転して脂肪と重なる。その半分の2.23msでは半回転なので脂肪と反対向きとなります。
TE=2.23ms のときは水と脂肪が逆位相となり、両者の信号を打ち消しあって画像化しopposed phaseと呼ばれます。
TE=4.46ms のときは水と脂肪が同位相となり、両者の信号が合算され画像化されinphaseと呼ばれます。
opposed-phase のコントラスト
シーケンとしてはT1強調画像のためinphaseもopposed-phaseもT1強調画像のコントラストとなります。
ですが、opposed-phaseでは水と脂肪の存在比率によりボクセルごとの信号強度が変化します。
opposed-phaseでは臓器の周りが縁取りされたように黒くなっていますが、内臓脂肪の脂肪成分と臓器の水成分をちょうど含む境界のボクセルで信号の打ち消し合いが生じ低信号化するためです。
また皮下脂肪や内臓脂肪では、ボクセル内はほぼ脂肪成分しか含まないため高信号のままとなります。
そしてこの画像の場合なのですが、肝臓の信号が低下しております。こちらは脂肪肝であり沈着した脂肪成分により水と脂肪の打ち消し合いが生じて低信号化しております。
逆説的な現象
造影検査を行うと、造影された場所では基本的に信号は増強します。
しかしopposed-phaseにおいては、造影効果があることでかえって信号が減弱してしまうことがあるのです。
その現象は paradoxical negative enhancement (パラドキシカル ネガティブ エンハンスメント) といい、
直訳では『逆説的 負の 増強』といいます。
opposed-phaseで撮像すると必ず起こるものではなく、条件が揃うと生じる可能性があります。
脂肪成分を含む多血性の腫瘤などで観察されるのですが、
造影前には脂肪成分が反映され高信号となり、造影後には多血性ゆえに造影剤が流れ込み、脂肪とは反対の水の信号が増強されるので横磁化の差が小さくなり低信号となります。
実際には造影後のGRE法ダイナミック撮影の場合脂肪抑制が付加されていますので、脂肪と水の打ち消し合いが生じずこの現象は起こりませんし、
仮に脂肪抑制なしのGRE法で造影後に撮像する場合は、TEの設定をin-phaseにしておくとこの現象が生じません。
ちなみに、
リピオドールにはMRIの信号に反映される量の脂肪成分を含んでおり、
肝臓の撮像において paradoxical negative enhancement を生じる可能性のある一つとなります。
TACE後の撮像で腫瘍部分に血流が残存していた場合、リピオドールの脂肪成分と造影効果により信号が打ち消し合い、低信号化することがあります。(※opposed-phaseの場合)
リピオドール
経動脈性化学塞栓術(TACE)に用い、抗癌剤とリピオドールを混和し動注する
過去問
16-2)1H の共鳴周波数が 127.8 MHz の MRI 装置において、水と脂肪の磁化が In-phase を繰り返す周期で正しいのはどれか。ただし、R:繰り返し周期[s]、C:ケミカルシフト[ppm]、γ:磁気回転比[42.6 MHz / T]とする。
1. R = γ / 3*C
2. R = 1 / 2*C*γ
3. R = 1 / 3*C*γ
4. R = 1 / 6*C*γ
5. R = 6*C*γ
1.2.3.○4.5.
①共鳴周波数127.8MHzのMRI装置とは、磁気回転比γ(42.6MHz)で割って・・・127.8/42.6=3T、3T装置となる。
②3T装置のin-phaseは2.2msなため、in-phaseの繰り返し周期R=2.2ms=1/(3×3.5×42.6)・・・R=1/(3×C×γ)
ちなみにopposed-phaseの時は、、
②3T装置のopposed-phaseは1.1msのため、opposed-phaseの繰り返し周期R=1.1ms=1(6×3.5×42.6)・・・R=1/(6×C×γ)
15-12) 脂肪抑制法に関する正しい記述はどれか。2つ選べ。
- 拡散強調画像には必要不可欠である。
- モーションアーチファクト低減に寄与する。
- Dixon 法の opposed phase 画像は脂肪組織が低信号になる。
- CHESS(chemical shift selective)法は低磁場装置に不向きである。
- STIR(short TI inversion recovery)法は脂肪の信号を選択的に抑制する。
?
1.○位相方向に大きくケミカルシフトが生じるため必須。
2.○腹部領域などにおいて呼吸によるアーチファクトは高信号の皮下脂肪が目立つため、脂肪抑制は有効。
3.×脂肪と水が混在する場合低信号。
4.○
5.×T1値に依存するため脂肪でなくとも低信号になる場合がある。非選択的脂肪抑制法。
2つ選ぶ問だが1、2、4は○と考えられる。
解説(DWI)
14-7) 1-2-1 の二項展開パルス(binomial expansion pulses)によって水を励起する。H の共鳴周波数を f [MHz]、ケミカルシフトを C [ppm]とした場合のパルス間隔はどれか。
- C・f
- 2・C・f
- 1 / (C・f)
- 2 / (C・f )
- 1 / (2・C・f )
1.×
2.×
3.×
4.×
5.○二項展開パルスではout of phaseになるタイミングでRF照射していく。1/Cfの時in phaseなので1/2Cfでout of phaseとなる。
解説(化学シフト)
13-24) 化学シフトに関する正しい記述はどれか。(正解 3 つ)
1. 水の 1H 原子核の化学シフトは脂肪より約 3.5ppm 大きい。
2. 化学シフトアーチファクトは受信バンド幅を広げると強くなる。
3. 第 2 の化学シフトアーチファクトはあらゆる方向に出現する。
4. 第 2 の化学シフトアーチファクトは逆位相画像だけに見られる。
5. EPI を除き化学シフトアーチファクトは位相エンコード方向に現れる。
1.○
2.×小さくなる。
3.○
4.○
5.×EPIでは位相エンコード方向に、その他シーケンスは周波数方向に出現する。
解説(化学シフト)
10-49) 化学シフトアーチファクトについて、正しい文章を選択してください。(正解2つ)
1.TE を長くすると目立たなくなる。
2.化学シフトはスライス選択方向には見られない。
3.受信バンド幅を大きくすると、化学シフトも大きくなる。
4.3T では化学シフトが 7ppm となるため、1.5T よりずれが大きくなる。
5.32KHz の受信バンド幅で 512 ピクセルの場合、3.0T の化学シフトは 7 ピクセルである。
1.○
2.×スライス方向でも見られる。
3.×化学シフトは小さくなる。
4.×3.5ppmは不変。
5.○1pixelあたりのBWを算出し、化学シフトがどれだけずれるかを計算する。
1pixelあたりのBW=32000/512=62.5Hz
3Tの化学シフトは、42.6MHz/T × 3T × 3.5ppm = 447Hz
447/62.5=7.152pixel
解説(化学シフト)
9-26)Gradient echo (GRE)シーケンスについて 正しい記述を選択してください。(正解3つ)
1.3個のαパルスを異なった間隔で印加すると3個の FID と5個のエコーが形成される。
2.1.5 T の磁場において TE=4.5msec、9 msec であれば水と脂質中のプロトンは逆位相になる。
3.Balanced SSFP では3(X、Y、Z)方向の流速補償が成り立ち、流入効果とともに 血管内が高信号になる。
4.第2の化学シフトアーチファクトは、周波数あるいは位相エンコード方向とは関係ないので、どの方向にも現れる。
5.Balanced SSFP(steady-state free precession)の信号強度は T1/T2 にほぼ比例するので hydrography に適する。
1.○
2.×同位相
3.○
4.○
5.× T2/T1
解説(化学シフト)、解説(GRE)、解説(SSFP)
8-26)Gradient echo(GRE)シーケンスについて正しい記述を選択してください。(正解3つ)
1.balanced SSFP の信号強度は T1/ T2 にほぼ比例するので hydrography に適する。
2.3 個の α パルスを異なった間隔で印加すると 3 個の FID と 5 個のエコーが形成される。
3.第 2 の化学シフトによると 1.5 T の磁場において TE=4.5ms,9 ms であれば水と脂質中のプロトンは逆位相になる。
4.balanced steady –state free precession (balanced SSFP)では 3(X Y Z)方向の流速補償が成り立ち、流入効果とともに血管内が高信号になる。
5.第 2 の化学シフトアーチファクトは、周波数あるいは位相エンコード方向とは関係ないので、どの方向にも現れ筋肉や腸管全体を取り巻くように描かれる。
1.× T2/T1
2.○
3.× 同位相となる。約2.2ms:逆位相、約4.4ms:同位相、約6.6ms:逆位相、約8.8ms:同位相
4.○
5.○
解説(化学シフト)、解説(GRE)、解説(SSFP)
7-6)3 テスラ装置の記述について正しい文章を選択して下さい。(正解 2 つ)
1.比吸収率(SAR)は 1.5 テスラの約 2 倍になる。
2.磁化率効果は 1.5 テスラより約 2 倍大きくなる。
3.化学シフト(ppm)は 1.5 テスラの 2 倍になる。
4.強磁性体に加わる回転力(トルク)は 1.5 テスラの約 4 倍になる。
5.第 2 の化学シフトアーチファクトの強さは 1.5 テスラより強く現れる。
1.× 2乗なので4倍
SAR∝(σD(B0θR)2)/ρ
σ:電気電導度、D:デューティーサイクル、θ:フリップアングル、R:半径、ρ:密度
水分含有量の多い組織はσ電気伝導率が高くなる
2.○
3.×ppm表示では不変で3.5ppm
4.○
5.×変わらない。
解説(化学シフト)
(5) Gd-DTPA 造影剤を用いたダイナミック造影検査について、正しい文章を選択して下さい。(正解2つ)
1. 下垂体は高速 SE(spin echo)法 T1 強調像を選択する。下垂体腺腫は、正常下垂体より早期濃染する。
2. 頭部灌流画像は EPI(echo planar imaging)法を選択する。造影剤による脳局所の信号上昇を捉えた曲線から、脳血流パラメータを算出する。
3. 乳房は脂肪抑制を併用した 3D gradient echo(GRE)法を選択する。撮像条件は、空間分解能と時間分解能を両立するために 1 時相 1 分程度に設定する。
4. 肝臓は in-phase の GRE 法を選択する。肝動脈塞栓術後のリピオドールは、障害陰影とならない。
5. 膵臓は脂肪抑制を併用した T1 強調像を選択する。典型的な膵臓癌は動脈相で膵実質より高信号に濃染する。
a.×正常下垂体の方が早い。
b.×信号低下を捉える。
c.○
d.○リピオドールには若干の脂肪成分が含まれているためparadoxical negative enhancementを生じる可能性がある。in-phaseもしくは脂肪抑制で撮像することでリピオドールは障害陰影とならずに済む。
e.×乏血性のため動脈相は膵実質の方が染まり、膵癌は徐々に染まっていく。
解説、解説(FSE)、解説(GRE)
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