【MRI認定 44】MT効果

どちらかというと裏方役のようなMT効果。

画像コントラストを低下させるのであまり良くないと思われますが、特に頭部領域ではこれを利用しMRAなどに一役買っています。

 

過去問ではちょくちょく見られますのでおさえておきましょう。

目次

MT(Magnetization transfer)効果とは

自由水と結合水

日本語では磁化移動効果と呼ばれ、他にはMTC(Magnetization transfer contrast)などとも呼ばれています。

MRIは1Hを画像化していますが、撮影したときに画像化されている1Hというのは水あるいは脂肪を構成する1Hとなります。

ここで、水には『自由水』と『結合水』があります。

『自由水』とは自由に動くことのできる水です。
『結合水』とは高分子(タンパク質やリン脂質)に結合していて動きが制限されている水です。
原理の記事④で触れた相関時間を思い出してください。自由に動けるものほど相関時間が短くグラフの左となり、T2値は長くなります。反対に動きが制限されているものは相関時間が長くなりグラフの右へ移動しT2値は短くなります。

高分子や結合水は動きが制限されているためT2が極めて短く(200μs以下)、これら信号を取得することはできません。TEの短いT1強調画像ですら8ms程度のTEなので、全く信号取得にならないのがわかりますね。

このように結合水の信号は取得不可能ですが、MT効果によって自由水の信号に影響を与えます。

 

共鳴周波数

自由水をHf(free hydrogen)、結合水をHr(restricted hydrogen)とします。

MRIの対象となる自由水Hfは長いT2を持ちます。(10〜1000ms)

MRIで信号を取得できない結合水Hrは短いT2を持ちます。(200μs以下)

T2と共鳴周波数幅は反比例の関係にあるためT2の長いHfは共鳴周波数は狭く(100Hz)ピークを形成し、T2の短いHrは共鳴周波数は広く(10kHz)分布します。
共鳴周波数幅とT2の関係はこちら

MT効果

MT効果はMTパルスを照射することで現れます。
(MTパルスを照射せずともこの効果が現れることもあります。後述)

MTパルス無しで撮像した場合、何回も言うように結合水Hrの信号は取得できないため自由水Hfの信号のみが観察されます。この時の信号をSfとします。

次にMTパルスを付加させて撮像したとします。このMTパルスは結合水を飽和させる作用があります。この時の信号をSsとします。

元から結合水Hrは信号に寄与しないため、MTパルスを照射しようがしまいが信号に変化はないはずで、この仮定が正しければSf=Ssとなりますね。

しかし実際にはMTパルス照射後の信号は低くなり、Sf>Ssとなります。

これは結合水Hrの飽和が自由水Hfに移動しHfの一部が飽和したためと考えられます。

MTパルス照射によって自由水Hfの信号は低下しますが、T1も短縮させます。

この時の関係式を示します。
※今のところ式は認定試験に出題されたことはありません。

このMTパルス照射後の信号低下は、交換速度やHfとHrの量などによります。

MT効果の活用

MT効果は信号を低下させるため良くないものという印象があります。実際にFSEシーケンスでは意図せずにMT効果が発生してしまい実質臓器間でコントラストが低下し、画像へ悪影響を与えてしまうことがあります。

しかしそんなMT効果も利用することができます。

背景信号の抑制

MT効果は高分子(タンパク質やリン脂質)が多い部位でより効果を出します。結合水が多くなるからですね。

そのため脳実質や実質臓器などではMT効果が大きく、血管や脳脊髄液などの高分子の少ないところではMT効果が小さくなります。

この特性はMRAやMRCPにとても都合が良いと言えます。

観察したい血流や液体部分は高分子が少なくMT効果の影響はありませんが、いらない背景となる脳実質や腹部内臓器は高分子が多いためMT効果が強く働き信号を抑制することができます。

他にも脳の造影検査で役に立ちます。

転移性脳腫瘍を検索する時、大きな腫瘍は造影により簡単に見つけられますが小さな腫瘍はとても見つけにくいです。ここでMT効果を利用すると脳実質の信号が低下し、腫瘍は造影効果があるため脳と腫瘍のコントラストが高くなり微小な腫瘍を見つけやすくなります。

このようにわりと身近な検査で使用されています。

性質診断

MT効果の影響は組織により様々です。この影響度合いを定量的に扱い、病変の質的診断に応用します。

飽和方法

MT効果は意図的に生じさせることができます。その方法としてオフレゾナンス法とオンレゾナンス法の2つの方法があります。
※resonance:共鳴

off-resonance法

自由水Hfの共鳴周波数は狭く、結合水Hrの共鳴周波数は広い範囲に分布します。

MT効果を生じさせるためには自由水Hfの共鳴周波数から離れた周波数成分にMTパルスを連続的に照射します。これにより自由水Hfには影響せず、結合水Hrの一部が飽和されます。次第に飽和は磁化移動により広い結合水Hrへ行き渡り自由水Hfの一部にも広がります。

この方法は磁場不均一に左右されにくいのですが、MTパルスの分撮像時間が増加してしまうことと、SAR上昇のデメリットがあります。

on-resonance法

Hfの共鳴周波数帯域に二項展開のRFパルスをMTパルスとして短時間照射(3ms程度)します。

二項展開のパルスとは90°-180°-90°と合計360°となるように分割照射するものでSSRF(Spectral Spatial Radio Frequency)やDE(Driven Equilibrium)としても用いられます。

このMTパルス中にHrは短いT2のため減衰が早く進むため消失してしまいHfだけが残ります。このように選択的にHrのみを飽和させたこととなります。

オフレゾナンスのような撮像時間の延長はほとんどありませんが、正確な照射が必要なため磁場不均一に弱いデメリットがあります。オフレゾナンスと正反対ですね。

意図しないMT効果

MT効果はMRAや頭部造影など使いたい時だけ付加できれば良いのですが、意図せずに生じることがほとんどでコントラスト低下の原因となり悪影響を及ぼします。

FSEではETL分の180°パルスが照射されますが、この180°パルスがオフレゾナンス法の役目を果たしMT効果を生じさせます。またマルチスライス法で撮像する場合、別スライスへの180°パルスもMT効果へ寄与します。

MT効果が生じてしまうと、頭部では脳実質のコントラスト低下、腹部では実質臓器間でのコントラスト低下となってしまいます。そしてMT効果の効きにくい脂肪や脳脊髄液、胆汁などは相対的に信号強度が高くなります。

対策としてはFAを低くしたりPresaturation pulseをつけている場合は外すことでMT効果を抑えることができます。



過去問からの出題

第6回-12
MRA の特徴について、正しい文章を選択して下さい。(正解3つ)

1.PC 法は TOF 法に比べ、患者の動きに影響されにくい。
2.位相コントラスト(phase-contrast)PC 法は、特定の流速を強調できる。
3.TOF(time of flight)法は PC 法に比べ、断層面に平行な流れを描出しにくい。
4.MTC 法は、タンパク質に含まれるプロトンや脂肪の信号を飽和させる手法である。
5.PC 法において、速度エンコーディング(venc)を 100cm/sec と設定した場合、125cm/sec の血流の位相シフトは、反対方向の 75cm/sec の位相シフトと区別できない。

第10回-16
血液スピンラベリング(arterial spin labeling: ASL)について正しいものを選択してください。(正解 2 つ)

1.PASL は CASL より SNR が高い。
2.PASL は CASL より SAR が低い。
3.PASL は CASL より magnetization transfer(MT)効果が大きい。
4.FAIR(flow-sensitive altering inversion recovery)は CASL の一つである。
5.ASL の灌流画像は、ラベリング撮像を行った画像からラベリングを行わないコントロール画像を差分する。

第10回-20
SE 法と比べた高速 SE 法の記述について正しい記述を選択してください。(正解2つ)

1.磁化率効果を受けやすい。
2.ブラーリング効果で細かい構造がぼける。
3.T2 フィルタリングによって T2 の長い組織を強調する。
4.MT 効果や T2 フィルタリングによって脂肪が高信号になる。
5.TE 平均化と MT 効果により軟部組織のコントラストが高い。

第11回-3
MT パルスについて正しい文章を選択して下さい。(正解 3 つ)

1.TE が延長する。
2.SAR が上昇する。
3.解像特性が向上する。
4.脂質は MT 効果が弱い。
5.プリパレ―ションパルスである。

第12回-11
MR 血管撮像(MRA)について正しい文章を選択して下さい。(正解 2 つ)

  1. Gd 造影剤投与後に撮像すると血管の描出能が向上する。
  2. TOF 法に MT パルスを印可すると流れの速い血管の描出能が向上する。
  3. PC 法の VENC(velocity encoding) 値を大きくすると流れの遅い血管の描出能が向上する。
  4. 脳血流の低下が予想される場合、TOF 法においては TE を延長することで血管の描出能が向上する。
  5. TONE(tilted optimized non-saturating excitation)法は異なる励起フリップ 角を用いて飽和効果を減少させることができる。

第13回-20
MRI の組織コントラストに関する正しい記述はどれか。(正解3つ)

1. 線維成分の多い組織では、T1 強調像、T2 強調像ともに低信号となる。
2. Magnetization transfer contrast(MTC)法は結合水の信号が増強する。
3. プロトン密度強調像は、半月板の描出に優れ膝関節の評価に有用である。
4. Arterial spin labeling(ASL)法の定量画像はプロトン密度強調像で信号補正を行う。
5. Blood oxygenation level dependent(BOLD)法は酸素化ヘモグロビンによる信号変化を利用する。

第13回-36
MR 血管撮像(MRA)に関する正しい記述はどれか。(正解 2 つ)

1. 飽和効果を減少させるにはフリップ角を増加させる。
2. PC(phase contrast) MRA 法は血流方向を示す画像を強度画像で示す。
3. VENC(velocity encoding) が小さすぎると速度折り返し現象が起こりやすい。
4. MT(magnetization transfer) パルスは脳では流れの速い血管の描出をよくする。
5. TONE(tilted optimized non-saturating excitation)は異なる励起フリップ角を用いて飽和効果を減少させる。

第13回-38
3D TOF-MRA MIP 画像の内頚動脈の信号欠損(矢印)に関して血管狭窄以外に考えられる影響はどれか。(正解 2 つ)

1. 乱流
2. 飽和効果
3. 位相分散
4. MTC 効果 
5. In-flow 効果

第14回-1
静磁場が強くなると起こる現象に関する正しい記述はどれか。2 つ選べ。

  1. T2 値は長くなる。
  2. 信号雑音比は大きくなる。
  3. 磁気回転比は大きくなる。
  4. ラジオ波の波長は長くなる。
  5. Magnetization transfer 効果は強くなる。

第15回-13
 正しい記述はどれか。3つ選べ。

  1. SWI は位相画像にローパスフィルターを施す。
  2. Synthetic MRI は脂肪抑制画像を取得することができる。
  3. フーリエ変換は deep learning によって置換することができる。
  4. MR fingerprinting では撮像パラメータを撮像毎にランダムに設定する。
  5. CEST (chemical exchange saturation transfer) MRI は MT(magnetization transfer)効果を利用している。

第15回-30
ASL(arterial spin labeling)法に関する正しい記述はどれか。3つ選べ。

  1. Pulsed ASL 法は 2 種類の反転 RF パルスを用いて流入動脈を標識する。
  2. Continuous ASL 法は pulsed ASL 法と比較して撮像部位の MT 効果が目立つ。
  3. 標識する部位と撮像断面が離れていると局所血流量を過小評価してしまう可能性がある。
  4. 標識された血液が太い血管内に残ると脳実質の局所血流量を過大評価する可能性がある。
  5. RF パルスのプロファイルの精度が低下すると局所血流量を過大評価してしまう可能性がある。

第15回-32
CEST (chemical exchange saturation transfer)イメージングに関する正しい記述はどれか。3つ選べ。

  1. B0 の不均一は画像に大きく影響する。
  2. プレパルスとして短時間の飽和パルスを用いる。
  3. CEST 効果を表す指標として MTRasym 値がある。
  4. 健常脳の MTR(magnetization transfer ratio)は白質より灰白質が高い。
  5. APT イメージングは可動性蛋白やペプチドに含まれるアミドプロトンを検出している。

第16回-14
高速スピンエコー法について正しいのはどれか。3 つ選べ。

1. ETL が大きい場合、T2 フィルタリングが起こる
2. 様々な TE でエコーが収集されるため TE 平均化がおこる
3. ブラーリングは k 空間の低周波成分に信号の低いデータを格納することによる
4. 再収束パルスは狭い送信バンド幅をもつため MT パルスとして作用することがある
5. 脂肪が高信号になるのは J カップリングによる信号低下が脂肪に作用しにくいためである

第16回-16
正しいのはどれか。2 つ選べ。

1. STIR 法は脂肪信号を特異的に抑制する
2. DE(driven equilibrium)パルスは横緩和を強調する
3. CHESS 法は共鳴周波数の差を利用して特定の組織だけを飽和させることができる
4. On-resonance 法での MT パルスは縦緩和時間の差を利用して結合水の磁化を飽和させる
5. 成人健常者の脳実質において,白質より灰白質のほうが MT パルスによる信号低下が大きい

第16回-33
高速スピンエコー法について正しいのはどれか。2 つ選べ。

1. 磁化率効果が増大する
2. ブラーリング効果が減少する
3. T2 コントラストはスピンエコー法よりも低下する
4. J カップリング効果の増大により脂肪が高信号になる
5. 磁化移動効果により実質組織間のコントラストが低下する

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